​ 理化学研究所と富士通が作ったスーパーコンピュータ「富岳」が、性能ランキングで世界初の4冠を達成した。スパコンの性能ランキングは世界レベルで毎年6月と11月の2回公表される、これを直近の2回連続して複数分野のベンチマークで4冠を達成したことにより、突出した性能を実現していることが証明された。新しい技術を追求しながら、優れた技術と製品で、人と社会のために貢献するという挑戦マインドの具現化である。

 

 「富岳」は、文科省及び理研と一緒に以下の事業概要を立て開発を進めた。

 ①システムとアプリケーションを協調的に開発することにより、世界最高水準の汎用性、最大で「京」

  の100倍のアプリケーション実効性能を目指す

 ②アプリケーションの対象として、健康長寿、防災/減災、エネルギー、もの作り分野の社会的・科学的

  課題を選定 

 ③消費電力 30-40MW(「京」は12.7MW)

 これは100倍もの実効性能をわずか3倍の電力で実現する、かつ特定の用途ではなく幅広い用途を想定するという高い目標である。世界最高水準の電力性能(電力あたりの性能)、計算能力、使い勝手の良さ、画期的な成果の創出を求める、総合力あるスーパーコンピュータの開発を目指した。

 上記4冠の内容は以下の異なる分野の性能追求である。

 (1)単純な演算速度を競う「TOP500」。計算性能は442ペタフロップス(ペタは1000兆、

    フロップスは浮動小数点演算能力)。2位の米国スパコン149ペタフロップスを大きくリード

 (2)産業利用など実際のアプリケーションでの性能を競う「HPCG」

 (3)人工知能(AI)で活用される性能を競う「HPL―AI」

 (4)ビッグデータ(大量データ)の解析に使う超大規模グラフの探索能力を競う「Graph500」

 アプリケーションで最高性能を出すことを目指した結果、これら特性の異なる分野で突出して1位を獲得したものである。それぞれ2位に対し3倍~5.5倍の圧倒的性能を実現している。

 この4冠の難しいところは、それぞれ汎用性・HPC・AIと特性の異なるアプリケーション処理において、それぞれの高性能と同時に低電力を実現することである。単純な高性能だけを追求するには、それぞれに特化した回路をプロセサに搭載すればいいかもしれないが、それではLSI面積も大きくなり、電力もコストも増大し非現実的になる。低電力を追求するなら、演算回路を少なくすればいいが高性能は望めない。高性能と低電力、この2極の両立が難しいところである。車に例えると、低燃費のファミリーカーでありながらF1レースも可能な車をいかに実現するかである。

 2極両立の実現は、太古の昔から変わらぬ国家や民族存続の要である。野中郁次郎先生は著書「戦略の本質」の中で、戦略は「弁証法」であり、戦略は人の営みの相互作用であるから、「正-反-合」の弁証法的に生成発展していくと述べられている。つまり、リーダがこの相互作用を理解して2極両立の戦略を的確に推し進めていくことが大きな命題である。

 それからもう一つ、2極両立を実現したとしても、それに時間がかかってTime To Marketで出遅れ他社の後塵を拝してしまっては後の祭りである。時間との勝負がそこに存在する。

 両方とも、時間を含む限られた資源の中でいかに最大のアウトプットを実現するかということであり、富岳の開発だけでなく、どの開発やビジネスにおいても必要なことである。その共通な基盤として3つの要素がある。

 1.限られた資源の中で、2極両立のための正しいトレードオフを実現する

 2.時間との勝負の中で、初めてのことでも一発でやり遂げる

 3.これを実現できるチームを醸成する(人財)

 3つとも、中長期戦略を含め、中身の本質をよく分かっている経営者のリーダシップと判断が必須である。経験もなく本質を十分理解できてない経営者の、その場限りの付け焼刃的な判断は禁物である。

 1つ目の正しいトレードオフについて、例えば開発担当者が重要な機能であると思っていても、あるいは慣習上重要とされているものがあっても適用を見送り、もっと効果のある機能を新たに考え出さなければならない場合がある。技術的あるいはビジネス的に、中身を十分知り本質を理解した上での正しい判断と創造が必要になる。

 2つ目は、開発もビジネスも初めてのことを進めている中、問題が起きないということはまずない、もともと問題が起きないように見切って進むことが重要であり、ときには見切るまで先に進まない経営判断が必要であるが、それでも問題は起きる。その場合、問題が起きてもその問題の本質を正しく認識してどこまで戻れば立て直せるか、すばやく判断する必要がある。それができる開発の仕方をもともとしておく必要がある。経営者の信念とリーダシップによるところが大きい。

 3つ目は、上記を実現できるチーム(人財)をどう醸成するか。重要な規範の一つとして、ここでは5源をあげる。ものごとの本質を見極め判断するのに、3現はよく言われる。しかし漫然と3現をやっても効果はない、本来どうあるべきか原理、原則で自分なりの予測をしてそれと見たものとをくらべ頭を働かせることにより初めて三現ができる。原理,原則,現場,現物,現実を合わせて5源と称す。スピーディかつ本質を捉えた確実な業務推進が可能になる。これは一朝一夕では実現できず、中長期視点に立った実践訓練が必要である。

 以上3点、いずれも経営者が率先模範すべきマネジメント戦略そのものであり、いつの時代にも通用する基盤の一つである。特にコロナ影響で大きな環境変化が予想される中、経営者自身が中身をよく知り本質を見極めることは、今後ますます重要になってくる。

 しかし、これらの実現にあたり定石はない。そのときどきの 開発対象、ビジネス環境、時間、関わる人たちの特性等、同じものはないからである。TPOをわきまえた上で、中長期戦略も考えつつ、アウトプットの最大化のための最適解を新たに考え出し実行する必要がある。

 そうした中、修羅場を乗り越えた経験者がいるとか、時代の動向も知り、成功も失敗も知っている人がいれば大いに参考になるし、知恵も借りられる。ナレッジピースにはさまざまな経験と実績をもち、創造的にそういうことができる人が多くいる。日本の発展の一助になれればと考えている。

以上

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エグゼクティブアドバイザー

 野田 敬人